推計によれば、2025年の単身世帯(1人暮らし)は、1996万世帯になり「6人に1人強が1人暮らし」に変わる。若い層の1人暮らしが減っているが、50代以上の1人暮らしが増加している。なかでも、70代単身男性の伸び率は51%、80歳以上の単身男性の増加率は55%も伸びていくとみられている。
その原因のひとつは、老親とその子どもとの同居率の低下である。妻と死別した80歳以上の男性とその子どもとの同居率は、1995年の67%が2015年には43%まで低下した。

もう一つは未婚化の進展である。65歳以上の男性で生涯一度も結婚したことのない未婚率は、2015年には5.9%であったが、2025年には9.0%になると推計されている。未婚の高齢単身者は、配偶者だけでなく子どももいないので、老後を家族に頼ることがいっそう難しくなるだろう。

===1人暮らしの高齢者の入居の拒否は77%===
77%の入居拒否感は、外国人の拒否よりも6ポイント高い。大家さんも管理会社も、1人暮らしの高齢者の入居を拒否している。その理由は、①孤独死、②認知症によるトラブルである。

孤独死の場合は、事故物件と考えられるだけでなく、最大の問題は相続である。入居者が死亡したとしても室内遺品は相続人のものであり、家主が撤去することはできない。相続人と話し合おうと思っても、誰が相続人かがわからない。家主自ら調べようとしても、「個人情報の関係で、行政機関は情報を出したがらない」大家さんは八方塞がりである。
認知症によるトラブルは、近隣住民との摩擦を起こすだけでなく、結果的に同じアパートの別の入居者の退去を引き起こしてしまう。加えて家賃滞納である。日本の法律では、滞納だけでは、すぐに入居者を追い出すことができない。訟を提起し、裁判所の判決を待つ必要がある。判決までには2~3カ月間はかかる。たとえ明け渡し判決を勝ち取っても、そのまま居座る入居者も少なくない。すると次は強制執行の手続きだがこれも、実務上難しい。

===法令の改正と新たな制度を設置が急務===
賃貸の法律は、現在でも昭和18年に制定された「借地借家法」に基づいている。戦後何度か改正はされたが、「借地借家法」は、「借家人は弱者である」との前提は変わっていず、社会の変化には全く追いついていないのである。まずは、法律は衡平公正であるべく社会の変化に対応していかねばならないと考えている。
一方、社会的弱者には、それぞれに応じた適正な制度を設けることで、社会的弱者である高齢者にも、大家さんにとっても役にたつ制度が設けられるはずである。
そのひとつとして考えられたのが、「住宅セーフティネット」制度であるが、これがまだまだ不十分な制度である。

===住宅セーフティネットの充実===
2017年10月に、高齢者や低所得者などの社会的弱者と、彼らの入居を拒まない民間の賃貸住宅をマッチングする新たな「住宅セーフティネット制度」が始まった。しかしいまだ2020年1月末時点で2万424戸にとどまっている。登録戸数1ケタ台の都道府県もあり、行政の対応は全く進んでいない。制度に認定されるためには、「耐震性能」「防火性能」「既存不適格」などをクリアしなければならない。大家さんにとっても多額の費用を掛けることにはためらわれる。
政府の考える制度は、理論上は良い制度ではあるが、どうやら現場の実情と離れているのかもしれない。

不動産トラブルトピック(Vol.7)
<更新拒絶>(3)

(質問)
家主が、「建物が古く建替えるので契約更新はしない」と言ってきました。
まだまだ十分住めると思うのだが、家主の言うとおり退去せざるを得ないのでしょうか?

(回答)
まず、家主から、入居者の退去を求める場合、契約終了の1年前から6ヶ月前までの間に通告することと、正当事由が必要とされています。
従って、家主が通告してきた時期が問題となります。

もし、通告時期が、「契約終了の1年前から6ヶ月前までの間」でなければ、そもそも正当事由の有無に関係なく、契約更新の拒絶そのものが認められなくなります。
通告自体が、適法に行われた場合には、正当事由があるかどうかという判断をすることになりますが、「建物が古く建替える」というのは、一見すると、正当事由に見えるのですが、単に、「古い」というだけでは正当事由とは認められていません。

通常、建物が古くなり、「朽廃(きゅうはい)」とみなされるような場合には、正当事由としてみなされますが、「朽廃(きゅうはい)」という状態は、室内から青空が見えるようなぼろぼろの状態ですので、現代においては、「朽廃(きゅうはい)」に近い建物を貸す家主もないでしょうし、借主もいないと思います。
従って、「朽廃(きゅうはい)」を理由にした正当事由が認められるケースは、ほとんどないと思います。「朽廃(きゅうはい)」までには至らない場合でも、地震による倒壊が非常に強いと判断されるような場合には、正当事由として認められる可能性はあります。

また、まともな生活を送れるようにするためには、大修繕が必要でありながら、大修繕しても、居住用の建物として利用できる期間が短い場合には、大修繕する意味がないため、大修繕が必要になった場合には、正当事由として認められる可能性が高くなります。

そこで、借主が、(大修繕を行わなくても)「まだまだ十分住めると思う」のであれば、
家主としての正当事由が認められる可能性は非常に低いと思われます。
それでも、家主が退去を求める場合には、前記(2)で述べたような立退き料の支払いが条件となるでしょう。

従って、家主からの「建物が古く建替えるので契約更新はしない」という主張を、そのまま受け入れる必要はなく、契約更新することが可能です。
(332-2)