2023年現在、築50年を超えるマンションは23万戸、築40年が97万戸、築30年が135万戸あります。この数字が10年後の2033年には、築50年が129万戸、築40年が135万戸、築30年が183万戸に増えます。戸建て住宅は、概ね築30年で建て替えられます。しかしこれまで建て替えられたマンションの数は300棟程度です。このほとんどがURなどの団地で、一般の民間デベロッパーが開発・販売したマンションは、50棟程度にしかすぎません。それだけマンションの建替えは不可能に近いと考えられてます。これを解決する動きについて考えてみます。

===建替え決議の緩和===
現在の区分所有法では、区分所有権と議決権総数の4/5以上の賛成が必要です。国土交通省では、この規定を緩和しようと検討を始めています。内容についてはこれから議論されるようですが、どうやら3/4までは引き下げるようです。
しかしちょっと考えてみてください。建替え決議の緩和でマンションの建替えのハードルが下がるでしょうか。4/5が3/4に変わると言われると、随分低くなる印象がありますが、パーセントにすると、80%が75%になるに過ぎません。これで建替えするマンションが増えるでしょうか?

===マンションの建替え費用===
国土交通省のアンケート調査で、建替えが難しい理由は「建替え資金がない」「仮住まいしたくない」の2つです。建替え費用がかかるかを調べてみました。建替えるマンションの規模や仕様によって変わりますが、私共の調査では概ね1戸あたり3000万円程度かかるようです。これに仮住まいの費用等が700万円前後かかります。家具家電の購入を加えると4000万円はかかると考えて良いと思われます。
 建替え前のマンションに容積率の余裕があって、戸数が2倍になりそれが販売できたとするとこの4000万円の負担は軽くなります。しかし容積率に余裕があるマンションは、ほとんどないと言って良いでしょう。多くのマンションは、容積率目一杯建てられています。最近の法律改正では、建替えの場合に容積率の緩和措置を制度化しましたが、建替えのメリットが出るほどの緩和ではありません。

===建替え融資制度の充実===
国土交通省のアンケートでは、築40年以上で建替え時期が迫っているマンションの世帯主の75%が60歳以上の年金生活の高齢者です。住宅金融支援機構では、これを建替え資金の一つとして「リ・バース60」という制度をPRしています。「リ・バース60」は、元本の返済を先送りして、金利だけの負担という制度です。しかしこの制度にもまだまだ問題があります。
建替え後のマンションの評価が6000万円だとしても、その50%程度しか借りれません。また金利だけといっても3000万円借りると毎月の金利は6万円を超えます。これに管理費や修繕積立金などが加わり、住宅の費用は概ね9万円となります。 厚生年金の平均受給額は14万円だそうです。ようやく住宅ローンを返し終わり、子供の教育費も負担しなくてよくなった方が、果たして喜んで新たな負担を受け入れてくれるでしょうか。国にはもっと大胆な制度を検討していただきたいと願っています。